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時間の鎖を解いて生きる
「今、10歳。80まで生きられるとして、あと70年だな。よかった、まだ、大丈夫。」
小さい頃から、死についてしょっちゅう考えていた、変な子だったわたし。なぜだろう・・・?
祖母が急死したのは、わたしがまだ小学1年生だった頃だ。今にして思えば、父はそれに強烈なショックを受け、それからずっと心が深く傷ついてしまっていたのだと思う。
父は、自分自身の苦しみを一切語らなかったが、わたしは父の思いを感じ取っていたのかも知れない。今にしてみると、自分の事として考えていたように思える。
人生は、自分の中で複数の物語が同時に紡がれて行く。
家族の物語。仕事の物語。恋愛の物語。友情の物語。求道の物語。堕落の物語。まるで違うジャンルの物語も、本棚に聖書と官能小説が並んで置かれるかのように、隣合わせて同時にある。
そして人は時に、家族でさえ知らない物語を胸に秘めて生きることがあるだろう。映画『エル・スール』はそれを美しく表現した作品だ。
ただ、秘めて生きるのは苦しい。
仕事柄、たくさんの人の秘め事に触れたが、ひとり胸の内に苦しみを抱えると、原因の分からない不安の元になるのかも知れない。
不安な時、人は未来を知りたくなることがある。そこで占いという商売も成り立つ。
不安な父はどんな人生を生きたのか?未来を思い描くことはできただろうか?たくさんの人を救った人生でもあったことに感謝したい。
ところで、小説『あなたの未来の物語』では、未来がわかる宇宙人と、未来を知らない人類との交流が描かれている。
悲劇があると分かっていながら、宇宙人は来た。
なぜ、悲劇を知りながら、彼らは来たのか?
悲劇以上のメリットがあると知っているのだ。
宇宙人の言葉を解読するルイーズは、同じく自分自身の将来の身の上に来る悲劇を知りながら、ある人生の選択をする。
宇宙人の選択も、宇宙人の境地に知らぬ間に影響を受けたのであろうルイーズの選択も、大事にしたのは結果ではなかった。
ルイーズは人生の長さではなく、人生の質を追求したのだと思う。
禅に言う「即今目前」を今一度思い出してみる。
人生の価値を長さだけに囚われていると、質を大切にすることを忘れてしまう。
長寿が幸福とは限らない。短命が不幸とは限らない。
わたしたちは小説の宇宙人やルイーズのように、未来に起こることをひとつひとつ見ることはできないが、ただひとつ、誰もがこの世からいづれ旅立つことは知っている。もしかしたら、それだけで良いのかも知れない。
旅立つことを前提に腹をくくった上で、長寿へのこだわりを捨てると、自分を縛っていた時間の鎖が解けるのではないかと思う。
今この瞬間に集中することができるのではないか?悔いのないように、やらねばならないこと以上に、やりたいことを優先できるのではないか?
わたしは、長寿への憧れをまだ捨て切れないが、今一度、自分が本当に何をしたいのか?どんな人生を生きたいのか?どんな内なる使命を持っているのか、もっと真剣に考えてみたい。考え続けたい。
平史樹