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相談例

「姉の虚言癖に困っています」

Q「姉に虚言癖があって困っています。本人に指摘しても全く直りません。

数日おきに夜に姉から電話がかかって来るのですが、必ず誰かの悪口を聞かされます。1時間以上、延々と悪口が続きます。しかも内容が具体的です。あんなひどいことをされた、こんなにひどい性格だ、と言った調子です。姉が一方的にしゃべり続け、私は相づちを打つという感じです。

そんなある日、法事で姉の夫とゆっくり話す機会があった時、姉の話が嘘だったことを気づかされてしまいました。

しかもショックだったことに、姉は姉の夫に対しては、私や私の夫の悪口を言っていました。私が夫とうまく行っていないことになっており、私の相談に姉が乗っていることになっていました。姉の夫が嘘をついているようには思えませんでした。姉が言う悪口とは、姉の全くの作り話だったのでした。

姉の夫は、そんな姉に慣れてしまい、全て適当に聞き流すようにしているそうです。悲しくなるのと同時に腹が立って、家で夫にこの話をしたら、夫は私以上に怒り狂って縁を切れと言い出しました。怒るのももっともだと思いつつ、しかし同時にたった一人の姉を無視することもできず、今では夫の目を気にしながら姉の電話の相手を続けています。

相変わらず誰かの悪口を聞かされますが、これも作り話と思うと以前のような同情心やあわれみは感じません。モヤモヤした気分に耐えきれず、ある時『嘘ついてるでしょ』と指摘したら、全く悪びれず『そんなことはない』の一点張り。もう二度と電話なんか出るもんかとも思いましたが、その後数日姉から電話がないと寂しくなっている自分に気づいてしまいました。

姉は電話する度に満足そうですが、私はモヤモヤがたまって来ています。お互いに不愉快にならずに関係を変えていくような方法はあるのでしょうか?」

A 「お姉さんの言う嘘は、どちらかというと妄想に近いのかなと感じましたがいかがでしょうか?

お互いに『不愉快』さを全く避けるということは、初めは難しいと思います。ただ、あなたひとり不愉快さを抱えたまま、これまで通り電話に応えるのは健康的ではない気がします。

お姉さんとあなたの関係を変えて行くことは出来ます。それはあなたのお姉さんへの態度を変えることです。選択肢はいくつもあると思います。思いつくものを四つほど挙げてみます。

①電話に出ない。電話で生じるあなたの不愉快はなくなります。

②電話に出ても時間を制限する。『10分なら聞くわ』と初めに断ります。そして時間が来たらスッパリと『ごめんなさい時間だからまたね』と明るく切ります。制限時間は自分で決めます。制限時間内でお姉さんの嘘を受けとめる態度です。

③電話に出ても話題を制限する。『誰かの悪口は嫌よ』と釘を差し、それ以外だったら聞くというもの。途中で悪口が出たら怒らず冷静に指摘して『その話をするなら電話はおしまいにしましょう』と言ってお姉さんに電話を続けるか終えるかを選択させます。遠回しにお姉さんの嘘を受け容れない態度です。

④電話に出て時間と話題の二つを制限する。『時間は10分ね。悪口は無しにしてね』と初めに断ります。時間を制限し、お姉さんの嘘も受け容れない態度です。

ご自身が納得できて、やりやすそうなものはありますか?どれを参考にするにしても、これまでの態度を変えるにはあなたにとってもお姉さんにとってもストレスやある程度の不愉快さは伴うでしょう。

肝心なのはあなたの気持ちだと思います。自分自身の気持ちに焦点を当ててみて下さい。あなた自身、お姉さんとの関係で『困って』いたり『ショック』だったり『悲しく』なったり『腹が立っ』たり『モヤモヤ』しても、なお『無視することもできず』『寂しくなっている』ご自身にも気づいたということですが、お姉さんとの電話は、あなたにとっても意味があるものだと思います。

方々で嘘をついてしまう人はいます。そのような人の共通点は、孤立していることが多いように思います。悪意で嘘をつく人もいますが、常に嘘をついてしまう場合、嘘が、その人にとっては大切なコミュニケーションの手段となっていることもあります。

例えば他人への誹謗中傷、悪口が嘘である場合、嘘によって自分を被害者に仕立て上げ、同情を買うことによって話を聞いてくれる人と親密な関係を築こうとする方法が習慣化しているような場合があります。

悪口以外であっても、つい嘘をついてしまう、常に嘘を言ってしまうなど、嘘が習慣化している場合、嘘か真実かという事実の問題の陰に、人と関わりを持ちたい、人の関心を自分に向けさせたいなどの感情の問題が隠れている可能性は充分考えられると思います。

ご自身で虚言癖に気づき、それが自分の立場を不利にしていることに気づくなどして、反省して改められる場合もありますが、自覚もできず指摘されても受け容れられず、なかなか改められない場合もあります。

そんな場合、無理して改めさせようとせず、嘘をつくこともまるごと認めて受け容れる人間関係があると、安心感を与え、精神的に安定する基盤を与えることができると思います。

嘘をつかれる側が、嘘か誠かという事実だけに焦点を合わせるのではなく、その背後にある、嘘をついている人の感情に寄り添い理解しようとする態度が、お互いの不愉快を解消していく鍵のひとつになるかと思います。

夫にも取り合ってもらえないお姉さんは、あなたとの電話によって唯一認められ受け容れられる関係を確保しているのかもしれません。それはお姉さんにとっては命綱のような関係かもしれません。

かといって、あなたが我慢し続けることによって成り立つ関係ならば、いくらあなたにとって意味ある関係と言っても健康的とは言えません。

今は、お姉さんの存在や電話そのものは拒絶せず、かといって嘘をまるごと認めることもせず、会話の時間や内容に制限付けた関係、枠を設けた関係で、あなた自身の心の健全を守ることも大事ではないでしょうか。

また、お姉さんの嘘がいつも人の悪口ならば、「悪口を聞いているのはつらいわ」など、あなたの気持ちや感情もお姉さんに伝えることも必要だと思います。その点は、意識されていますか?ただ一方的に聞き役になってしんどくなっていませんか?

虚言癖に限らず、お姉さんを変えることは難しいと思います。人を変えるのは難しいです。

『変える』、『治す』というような発想よりも、お姉さんの存在を『認める』、うまく距離を作って『付き合う』という発想がこの場合、先ずは大切なのではないでしょうか。

本質は、誰かと親密な関係を求めるお姉さんがいて、あなたはそれに応えたいのだと思います。しかし、お姉さんのコミュニケーションの取り方に癖があって、あなたはストレスを感じている。それならばあなたがストレスを感じないような工夫をすれば良い、とわたしは思いますが、いかがでしょうか。

嘘は悪いものだと言って裁こうとしたり、誤りを矯正するような発想でつき合うと、お姉さんもあなたも苦しくなり、いずれ関係は疲弊したり破綻してしまうのではないでしょうか。

本人に自覚のある悪意に基づく嘘ならば、指摘して是正する意味もありますが、無意識に人の気を引くためについてしまうような嘘は、認知症(痴ほう症)と同じように、無理に直そうとするよりも受容する心で接するほうが、お互いの関係にとって建設的ではないでしょうか。

またその中で、あなたがご自身の感情も大事にして、相手を傷つけない工夫をしつつも自分の気持ちを伝えて行くことが、お互いの不愉快さを減らし、関係をより良く育てて行くことにつながるのではないかと思います」

心理カウンセラー 平史樹

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