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カウンセリング

ストーカー加害者、その素顔は?

何度目かのデートでレストランに行く。会計の前にトイレに行ってからテーブルに戻ってみると、どことなく彼女の顔色が悪くなっている。

どうも、雰囲気が変だな・・・と気になりつつ二人で車に乗り込むと、彼女はしばらくしてからこう言い出した。

彼女「トイレで、カノジョに電話してたんでしょう」

寝耳に水の指摘に、彼は混乱する。彼女は悪びれた様子もなく淡々としている。冗談で言っているようには見えない。

彼「えっ?何それ・・・、どうしてそうなっちゃうの?」

彼女「カノジョと何話してたの?デートの約束?」

彼「ええっ、だから何そのカノジョって?つきあってる人、ほかにいないし、だいたいどーしてオレが電話で話してたことになってるの?」

彼女「長すぎ」

彼「ウンコだよ」

彼女「ごまかさないで・・・カノジョかばって嘘ついてるでしょ」

彼「えー!何だよそれ、オレの言い分信じられないの?なんなら携帯見せるよ。」

彼女「履歴消してるの見てもしょうがない」

彼「・・・」

約2時間のドライブ中、ずっとこの調子で彼女の疑いは晴れず、釈明しても増々疑いをかけられてしまう。

彼女から散々責められ続け、悲痛な気持ちで駅まで送る。

もう、連絡は来ないだろうな・・・と思っていると、夜中に彼女から「会いたい」「好き」とのメール。

いい加減、腹が立つので無視していると、数分ごとにメールが届く。嫌気がさすので電源を切って寝た。

翌朝、起きて携帯の電源を入れると、彼女から数十件のメールが入っている。

どうやら徹夜でメールを送ってきていたらしい。

ちらっとメールの内容を見ると、返事を催促したり、返事がないからと怒ったり、そうかと思うとデートで疑ってしまいごめんなさいと謝って来たり、それでも返事がないとまた怒ったり、例の「カノジョ」と会っているんだと疑って来たり、「会いたい会いたい」と何十回も連呼して来たり・・・彼は増々彼女と連絡をするのが嫌になってしまう。

彼女の常識を超えるメールの数は、強い見捨てられ不安の表れだろうか。

それから彼はいつも通り出社、午後になって受付の女の子から報告を受ける。何度も彼あてに女性から電話が来たが、名前を聞いても名乗らないので取り次がなかった。それでもしつこく電話が鳴るので警察に通報すると厳しく言うと、ピタッと電話がなくなったとのこと。

受付の子には事情を打ち明けて詫びる。

その後、彼女からの電話とメールの着信が鳴り続ける。

メールによれば、彼女の中では、彼の職場の受付の女の子が彼の浮気相手のカノジョだということになってしまっている。

妄想が一層彼女を不安にさせるのだろう、さらに電話やメールの数が増す。

ついに根負けした彼は、彼女からの電話に出てしまう。

1時間は怒り狂い怒鳴り雄叫びを上げる彼女をなだめ、その後少し落ち着き始めるとまた1時間位かけて彼女の悩みを聴いたり励ましたりした。

穏やかになった彼女。安心した彼はホッとして電話を切る。

やれやれ、よかったな、と思っているのもつかの間、2時間ほどするとまた彼女から電話がかかって来る。

もうさっき落ち着いたからと油断していた。彼女はまたもや怒り狂っている。

彼女の言い分はこうだった。自分は浮気をされているにも関わらず、彼の言い訳に無理矢理説得させられた。到底納得がいかない。

彼はまた1時間以上かけて彼女をなだめ、その後また1時間以上かけて彼女に優しい言葉をかけた。

再びおだやかになる彼女。穏やかな時には、優しく、淑やかで、会話も楽しい。知的で魅力的な人だ。

しかし彼は、彼女を避けるようになっていた。彼女に尋常ならざる危うさを感じていた。

2~3時間電話の相手をすれば、彼女の興奮も静まることを学習した彼は、それから時々彼女の電話には出るが、デートの約束はしないでいた。そんな日々が、数か月続いた。

彼女は、会えないことで彼が浮気しているとの確信を、ひとりで強めるだけだった。

「会いたい」「会えない」のやり取りの繰り返しの後、ついに彼女は怒り、彼の家族を殺すとまで言って来た。

彼女には住所は教えていなかった。自分も彼女の住所を知らない。

お互いに、最寄りの駅を知るだけだった。

「まさか、来ることはないだろう」

彼はたかをくくっていた。しかし、彼女は来た。しらみつぶしに歩いて、見つけられずに帰り、また日を改めては違う路地を歩いて、表札を一軒一軒確認し・・・ついに探し当てたらしい。

メールに、「今、あなたの家の前まで来た。」と入った。

庭の様子が書かれていた。

彼はぞっとした。自分から彼女に電話をかけた。

「帰ってほしい。帰らないなら警察を呼ぶ」

彼女は帰った。玄関に、お菓子の折詰が紙袋に入れられてドアの近くに置いてあった。

二度目の訪問で、彼女はストーカー行為の現行犯で警察に身柄を拘束され、もう二度とストーカー行為をしないと誓約させられた。

しかし、彼女は再び来た。またもや警察に拘束された。

彼は、彼女からの連絡を、一切無視することにした。

不定期に送られてくる彼女からのメールを読むと、以前からストレスを強く感じていた職場に、ついに出られなくなったということだった。経済的な死活問題から、彼女の関心は職場に移って行くようだった。借金があり、実家にも頼れない彼女が、仕事に行けないのは深刻な問題だった。

彼は、彼女を心配したが、彼の優しさが彼女のストーカー行為を誘発することを思うと、連絡は取れなかった。

彼女はアパートに引きこもるようになった。

ある時、突然、彼女からの電話もメールもストーカー行為もなくなった・・・。

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今回の事例は、彼からの相談で、ストーカー行為がなくなった後の心理的後遺症への対処について問われたものでした。

さて、ストーカーについてですが、その行為を犯罪として見ると、彼女は加害者であり、彼が被害者になります。

犯人捜しをするのは「司法モデル」のものの見方。

彼女は警察に注意される形で罪を咎められました。

しかし同時に、「医療モデル」という捉え方もあります。

これは、同じ事柄でも、誰にケアの必要があるのかを問う見方です。

「医療モデル」で見ると、彼女にケアの必要があるのは明確だと思います。彼にもケアが必要です。

カウンセラーも社会の一員である以上、法に則り「司法モデル」は尊重します。

しかし、それだけでは当事者一人ひとりを充分に救うことは出来ません。

彼女を法に照らして罰しただけでは、本質的な解決にはならないということはお分かりいただけると思います。

では、「医療モデル」から、彼女をどう捉えることができるでしょうか?

わたしは、彼女の彼に対する態度から、彼女の個性の中に妄想性のパーソナリティ障害の傾向があるのではないかと推測します。

人を疑ってしまうと、自分自身の中で生ずる疑心暗鬼を、そのまま完全に真実であると信じ込んでしまい、修正できなくなるような傾向です。

疑う心は、誰もが持ちます。

ただ多くの場合、人は疑いを持った時、それが正しいかどうか、確かめようとします。

ところが中には、疑いを持ったら、それを検証することなく即、真実であると思い込む人もいます。

ただそのような人でも、客観的な検証を促されたり、自分とは違う意見を聞くことによって、考えを変えることが出来ます。

かなり頑固で、自分の思い込みや決めつけを変えたがらない人もいます。しかし、これらの人も、礼節をもって根気よく、具体的な事例をいくつも挙げて穏やかに丁寧に諭せば、信念を変えることができます。

妄想性のパーソナリティをネットや本で調べれば、明確な理由や根拠なく人に不信感や疑念を抱き、対人関係に支障をきたす等とあります。

自分だけが持つ思い込みを修正したがらず、対人関係に支障をきたしている人は、大勢いますよね。

人に迷惑はかけないが、思い込みや疑心暗鬼から自分を孤立させ、自分自身を困難にしている人とも多く出会います。

これらは妄想性パーソナリティ障害と呼ぶとしても軽症です。どんなにガンコ者でも、真心をもって「話せばわかる」からです。

重傷で、本当に救いが必要な妄想性パーソナリティとは、自らの疑心暗鬼を信じ切って、一切修正できないような性質と言っていいでしょう。だからこそ本人にも周囲にも、深刻な困難や不利益をもたらすのです。

では、どうしたら妄想性のパーソナリティに苦しむ人の助けになるのでしょうか?

例えば、今回挙げたスートーカーの事例について、仮に彼女と面接できたとして、例えばどんな対応があり得るでしょうか?

「・・・では、あなたは、彼が別のカノジョと浮気をしていると思うんですね?」「〇〇〇〇」「そうなんですね・・・」

「どうしてそう思うんでしょう?」「〇〇〇〇」「そうか、そうでしたか・・・そういう理由があるんですね」

「彼はカノジョとは付き合っていないと言っているんですね?それについてはどんなふうに思いますか?」「〇〇〇〇」「ああ、そうなんですね・・・そう感じているわけですね」

「とすると、あなたは、彼の言い分は信じられないんですね?」「〇〇〇〇」「そうか・・・それで信じられないということなんですね・・・」

実際は沈黙(間)を大切にしたり、時に脇道にそれて遠回りしながらですが、このような感じで問いかけ、本人の言い分を遮ったり否定することなく聞いて行くと、自然と相手の中で自分自身の思い込みや信念について、内省や再検討が促されます。

これで、「あ、強情張っていたけれど、決めつけ過ぎていたかなあ・・・」とか、「どうして、あんなに疑ったりしていたんだろう、どうかしてたな・・・」と、疑心暗鬼が晴れたり、偏った認識が修正されたりしていくことも多いです。

しかし、同じように聞いても、疑いの心が晴れるどころか、かえって疑念から生じた思い込みを強めてしまうことがあります。

そうしたらどうするか?

そんな時わたしは、妄想を否定しません。また無理に、疑う心を修正させようとも思いません。

相手の思いを尊重した上で、「浮気をしている彼を、どう思いますか?」「浮気をしている彼と、これからどうして行きたいですか?」そんな風に投げかけます。「彼は、浮気をしているんですね・・・」と、ただ肯定するだけのこともあります。

何かを変えようと慌てることはありません。ただ、相手の信念を壊そうとせず、その中に、じっと留まる。

彼女の目線で、彼が浮気をしていると信じていることの苦痛を分かち合います。

そうすると、言葉の奥にある彼女の気持ちがじんわりと感じ取れるようになって行きます。

適切と感じられるタイミングで、そのようにして感じ取った気持ちを、彼女に伝え返して行きます。

「それは、さびしいね・・・」

こんな時は、彼女の中にカタルシス(浄化)があるかも知れません。よく、すっきりしたと言われます。

かといって、妄想が変容するとは限らない。

むしろ妄想を変えると、彼女にとって不利益が生じるかも知れない。

妄想が彼女を救っているかもわからない。

そんな視点も大事です。

例えば、いつか彼が自分を愛さなくなるなることへの恐怖に怯える苦痛な日々を送るくらいなら、彼は浮気をしており既に自分の心から離れていると考えた方が楽だと無意識で思っているとか。

「自分を愛する者は必ず突然いなくなる」という信念を無意識に持っていて、その体験の苦しみを何とか避けるために妄想を真実として認識してしまっているとか。

カウンセラーとしての個人的な価値観やものの見方を一旦横に置いて、無批判に無条件に相手のありのままを見ようとすると、全く思いがけない相手の心の奥深さを感じ取れる気がします。

何かテクニックを使うわけではありませんが、これはカウンセリングの魔法かも知れません。

相手を変えようとしない。ただ、感じ取る。同じ時間と空間を共にくつろいで過ごす。

それには勇気も必要です。自分の経験や価値観を越えたもの、自分の理解を越えたものを受け入れる覚悟もいるのです。

しかしそうしていると、相談者に心理面で安心感をもたらすだけでなく、現実的にも何か予想もつかない良いことが起きたりします。

例えば、ストーカー行為をしないでも済むようになった例もあります。

何が起きるかは、相手によりけりで法則性はありません。ただ、ありのままに見る、そのまま受け入れるという一見消極的な行為が、非常に治療的であるのは間違いないと思います。もちろん相手のかたへの愛情は不可欠です。

今回の事例について、わたしは彼と話しただけで、彼女とカウンセリングをする機会はありませんでしたが、同じように妄想が激しく、自分ではどうすることもできないと他のかたから相談をいただくこともあり、妄想への対処についてはそんな時のカウンセリングを思い返しながら書きました。

さて、今回の事例について補足しておきます。

ストーカー行為をした彼女を、面倒見切れずに見捨ててしまったように感じ、苦しんでいた彼ですが、カウンセリングを通して、彼も相当苦痛を感じながらも彼女の気持ちを真剣に受け取り、励まし続けていたことに気づくことが出来ました。また、彼女が行き詰った精神状態で発した脅しやストーカー行為が、彼にとっては深刻な恐怖体験であったと振り返ることができました。彼女の優しさや真心が今でも信頼できるのと同様に、精一杯関わる中で彼が示した愛情も、今も彼女の中に生きていることを信頼することが出来ました。

なお、彼女が彼の浮気を確信してしまう性質を推し量るヒントとして、妄想性のパーソナリティを想定しましたが、もちろん、彼女の中にはここで語り切れないその他さまざまな側面や性質があると思います。

また一般的に、統合失調症やその他の精神障害、あるいは身体の疾患によって、過渡の疑心暗鬼といった妄想を体験することもありますので、見立てには注意が必要です。

また、一般的なストーカー行為について、主な特徴は妄想だけではありません。未練や執着が強かったり、嫌がらせが目的のこともあります。彼女の場合は、見捨てられ不安と執着が強力に働いていたのではないかと感じましたが、実際のところは本人によく聞いてみないとわからないことです。

これまで複数のストーカーにまつわるご相談を受け、ストーカー行為をする人、される人、双方の話を聞いた中で感じるのは、誰でもストーカーになり得るということです。

見捨てられることへの不安、自分が好きなのだから相手も当然自分のことを好きだと思い込む自信過剰、別れたことに納得できずにいつまでも付きまとう未練、相手を自分の影響下に置こうとする支配、好きだから応援したいからとスターのファンのようにまとわり続ける追っかけ・・・

携帯をはじめ、好きな時にいつでも人とつながれる技術がますます進歩している世の中では、相手の立場や気持ちになって考える想像力や思いやりの大切さを喚起して行く必要を感じます。

相手に送ったメールやライン・・・返事がないのに再びこちらから送ってしまったら、自分の中のストーカー気質をチェックしましょう。あなたの中にあるのは不安?支配欲?それとも?・・・自覚があるだけでも、対人関係にバランスをもたらします。

相手には相手の事情もある、そう考える癖を意識してつけると、余裕をもって人と関わって行けるようになります。自分自身が楽になります。

心理カウンセラー 平史樹